会計のおススメ本として「稲盛和夫の実学 経営と会計」を紹介します。
独立会計士・税理士のモモタロウです。
今回ご紹介する本は稲盛和夫の実学 (日本経済新聞出版)です。
稲盛さんについては、改めてご紹介することもないくらい、有名な経営者です。
京セラの創業者で世界的な大企業に育てられた方、第二電電(今のKDDI)を創業され、JALの再生にも成功された名経営者の中の名経営者です。
経営者・ビジネスマンにも、稲盛さんのいわゆる経営哲学に対するファンは非常に多いです。
稲盛さんの本は色々出ているのですが、会計分野での著作として有名なのが稲盛和夫の実学 (日本経済新聞出版)です。
この本が出版されたが1998年で20年以上前の著作になるのですが、改めて読み返してみても内容が全く色褪せないというか、専門家としてもおススメできる著作になっています。
本書の中から特に印象に残った項目を3点と本書のすばらしさについて解説します。
要約ポイント① キャッシュベース経営の原則
キャッシュフローを重視
稲盛さんは、損益の数字と実際のお金の動きを結び付けることの重要性を学ばれています。
会計が分かっている方には当たり前の話ですが、「利益」≠「キャッシュ」です。
① 売上を立てても、売掛金を回収できなければ会計上の収益(利益)がキャッシュにならない。
② 在庫が減少すれば損益のマイナスになるが、キャッシュには影響しない。
③ 減価償却費は損益のマイナスになるが、キャッシュには影響しない。
④ 借入をした際にキャッシュのプラスになるが、損益には影響しない。
そのためにも、経営においては利益だけでなくキャッシュフローを追うことが非常に重要です。
見かけの利益だけを追うと、本質を失うことがあります。
驚くべきことに京セラでは1990年からキャッシュフロー計算書を導入していたのです。
京セラが米国基準を採用してたということもありますが、いかにキャッシュフローを重視していたということが分かる話だと思います。
銀行借入の考え
稲盛さんは銀行借入について以下の通り言及しています。
…一方、企業が直接事業から借入の返済にあてることができる原資は大きく二つの源がある。
それは、税金を支払ったあとの利益である税引後利益と、会計上経費としているが実際には手元にキャッシュとして残っている減価償却費である。
つまり、安全に経営をしようと思えば、減価償却プラス税引後利益で返せる範囲のお金でしか設備投資してはならない。
稲盛和夫の実学 経営と会計 第一章 3土俵の真ん中で相撲を取る より一部抜粋
上記文章を補足説明すると、
「税引後利益+減価償却費=簡便的な営業キャッシュフロー」になります。
営業キャッシュフローというのは、本業(営業活動)で獲得したキャッシュフローを意味します。
すなわち本業の範囲内で投資せよという考えです。
このことは、下記の式で表せるフリーキャッシュフローがプラスになることを意味しております。
「FCF(フリーキャッシュフロー)=「営業CF(営業キャッシュフロー)―投資CF(投資キャッシュフロー)」
です。
フリーキャッシュフローが常にプラスとなるような企業は優良企業です。
この考えからも堅実な投資や成長をされてきたということが良く分かります。
要約ポイント② 筋肉質経営の原則
稲盛さんは、筋肉質の経営を行うために「中古品で我慢する」「健全会計に徹する―セラミック石ころ論」「固定費の増加を警戒する」「投機は行わない―額に汗した利益が貴い」「当座買いの精神」という話をされています。
どれも体験談に基づく重要な示唆に富む話です。
上記の中で、特に印象が残ったのが「健全会計に徹する―セラミック石ころ論」という話です。
これはセラミックとして在庫として残っているものでも、需要がなければ無価値であり「石ころ」として捨てる必要があるということです。
・棚卸資産は、たとえ経済的に無価値であっても、在庫として保管しておけば帳簿上は損失として認識されることはない。
・原則として棚卸資産を廃棄しない限り、税金として損金(費用)として認められることはない
上記の考えを踏まえると、無価値な在庫は早めに処分するのが鉄則ですが、不良在庫に対する意識が低い会社も多いです。
本書で書かれているように、経営者クラスが不良在庫を早めに処分しようというべきなのです。
しかしながら、私の経験では経営者クラスが不良在庫に関心を持っているかというそうではなく、無関心な方が多いと思います。
逆に損益が悪化すると困るといって、利益がたくさん出た時に在庫を処分しようとする方が多いです。
このような考えを稲盛さんは、会社や自分の評価を気にして業績を少しでもよくしようとする姿勢を強く戒めています。
まさに経営者としてあるべき姿だと思います。
要約ポイント③ ダブルチェックの原則
稲盛さんの基本的な考えとして「人に罪をつくらせない」という考えがあります。
これは重要な考えです。
公認会計士として仕事をする中で、残念ながら不正案件に遭遇することがあります。
不正案件に遭遇する度に思うことは、不正を起こした本人に問題があることは当然ですが、不正を起こす機会を与えた会社(経営者)にも責任があるということです。
稲盛さんが本書でも書いているように、人間には心の弱い部分があり、魔が差すこともあります。
魔が差した時に、不正を起こせないような仕組みを作ることが重要であって、不正が出来てしまう環境を作るのは経営者の責任になるでしょう。
ダブルチェックの具体的な方法として、稲盛さんは以下の点に言及しております。
・入出金の取り扱い
・会社印鑑の取り扱い
・金庫の管理
・購買手続き
・売掛金・買掛金管理
・作業屑の処分
ここで言及されている方法は、内部統制の基本的な考え(原理原則)であり、今日でも全く色褪せることはありません。
このような話は、ある意味細かい話で世の中の経営者からこのような話を聞くことは残念ながらありません。
ダブルチェックといったある意味地味なことに言及されるのは、健全な会社経営を行うのだという強いマインドがあるからこそだと思います。
稲盛さんが天下の名経営者と呼ばれる一因は、このようなところにもあるのだと感じました。
なぜ「稲盛和夫の実学 経営と会計」を読む価値があるのか
本書は、会計に携わっている人にとってはある意味当たり前のことが書かれているといえば、その通りなのです。
では、なぜこの本が、刊行から20年以上も経っているのに読む価値があると言えるのでしょうか。(本書は1998年の刊行です。)
それは、実務家、会計の専門家でない稲盛さんが、自分の頭で考えて、この会計の原理原則に行きついて、体系化されているところに価値があるのだと思います。(もちろん、京セラの経理部長が体系化させた功績も大きいと思います。)
私は公認会計士として色々な企業と関りを持たせていただいいております。
モノマネで形だけを真似て会計と向き合う会社と真剣に会計に向き合う会社では、圧倒的な差が出てくるのは感じております。
・会計基準が決まったから仕方なく取り組むような会社
・マーケットに対して有益な情報を積極的に開示しようという会社
・あるべき管理会計・経営の意思決定に必要な管理会計を模索するような会社
この本が刊行されたのは1998年です。
日本で、キャッシュフロー計算書の作成・開示が義務付けられたのが2000年、J-SOX(財務報告に関する内部統制報告制度)が開始されたのが2008年になります。
ある意味、時代の先を行っていたのだと思いますが、原理原則に基づく会計の考えを踏襲していたからこそ時代が追い付いてきたのだと思います。
私自身、会計人として基本に立ち返る大切な一冊になっております。
まとめ
今回は「稲盛和夫の実学 経営と会計」をご紹介しました。
普段、会計に縁がない人でも分かりやすい内容になっています。
日常的に会計に携わる人でも、新たな発見が得られる一冊だと思います。
今回の記事が皆さまの参考になれば幸いです。